コロナ禍で DXが一気に進むアメリカテレビビジネス

谷口 悦一

ビデオリサーチUSA 社長

谷口 悦一


世界で猛威を振るい、収束の目処が立っていない新型コロナウイルス感染症。2020年 10月23日時点で全米での感染者数は世界最多の約850万人、死亡者数は22万人超、米大統領トランプ氏ですらも感染してしまう程です。このような中、アメリカにおけるテレビ視聴者・放送局・テレビビジネスはどのように変化したのか。そして、今後の行方を独自取材をもとにレポートします。

在宅時間増で一時テレビの視聴増も、ストリーミング視聴増が顕著に

コロナにより、日本と同様、アメリカでも人々の生活様式は大きく様変わりしています。多くの企業では出社が制限され、学校も閉鎖されたことで、人々の在宅時間は大幅に増えました。

このような状況下でテレビの視聴者数は前年から大幅にアップしているのです。自宅待機命令が出された春先、2020年3月16日~22日の週をみてみると、同月前年比がFOX Newsが73%増の250万人、MSNBC(NBCU系列ニュース系ケーブル局)が45%増の148万人、CNNは驚きの 2.5倍、155万人となっています。ニールセン社の報告によると、5月に入っても、複数人数としては国民の半分以上がテレビの前にいる模様。なんと、動画配信が浸透しているコードカッティング (CATV契約解除)世代や若年層の間ではそれ以上だったようです。

ただ、コロナの影響を中期的にみてみると、番組単位での視聴率は若干下がっています。昨年と今年で比較すると、2019年はスポーツコンテンツが4つランクインしていましたが、2020年はBIGスポーツの中止に伴い、それらのコンテンツが不足。その影響が数字に表れ、2019年は1位がスポーツコンテンツの「CBS NCAA BSKBL CHAMPSHIPS」の6.50%だったのに対し、2020年は1位でもテレビドラマ「NCIS」の 5.43%が最高。昨年比1.07ポイント減となっています[図表1]。

その一方で、テレビデバイス経由でのスト  リーミング視聴割合はテレビ全利用の20%強 (2020年4月~6月期)を占めました[次頁図表2]。これは前年比で50%増となります。アメリカの世帯は、約60%にコネクテッドTVが普及している と言われます。ストリーミングは、コネクテッド TV経由で簡単に視聴できることもあり、多くの 視聴者がNetflix、Hulu、AmazonPrimeVideo  に流れているのが現状です。昨年末にスタート したDisney+や、今春からのNBCUのPeacock も予想以上に加入者は増えています。

このような流れを受け、テレビデバイスでの ストリーミング視聴時間(2020年3月16日週)は、前年比2.2倍の約1,561億分でした[次頁図表3]。 1世帯あたり1日での視聴時間を推定すると2.5~4時間程です。これにはPCやスマホは含まれないため、デバイスを問わないオンラインでのビデオ視聴全体ではこの数字をさらに上回ります。

このストリーミングヘの「移行」について、元 電通イージス・ネットワーク社のアンディー・ドン チン氏は、「コロナ以前からシフトしてきていた が、コロナが拍車をかけた」と語ります。従来ス トリーミングは若い層が中心でしたが、コロナで 在宅が継続され、幅広い年代に浸透しつつあるよ うです。ただ、ストリーミングが優勢にみえる中、テレビ全利用では依然ライブ放送が64%と高い 割合を占めていることには変わりありません。

当然ながら、コロナによる影響は制作にも及びます。各局制作が滞る中、人気ドラマの“アンコール’’放送や、過去の番組の再編集などで凌いだものの、現時点でもスポーツコンテンツをはじめ番組制作の先行きが不透明です。この窮状では良質且つ豊富なコンテンツを多く有することが鍵になりますが、これも先述のストリーミングへの視聴者流出の一因と言えます。

テレビビジネスの売上は縮小も、質の良いリーチの強みでアップフロントは局側の勝利か

個別のヒアリングをもとにまとめたところ、2020年1~3月期の広告売上は、前年比30~40%減。4~6月期は、多少戻るものの、引き続 き大幅減となっています。年間を通じての予測 を詳しくみると、ケーブル局(全国)は16%減 の26億ドル、ネットワーク局(全国)は13%減 の13億ドル、シンジケート系は15%減の2.6億 ドル、ローカル局系は9%減の5億ドル。かたや、 VODのストリーミングは広告費がアップして  おり、Roku、Hulu、Peacock等は38%増加で、約4.4億ド‘ルになると見込まれています。また、オンラインメディア・デジタルは総合的にみて 4%増しの109.1億ドルになると予想されています。

このような中、2020年のアップフロント取引は8月から交渉が開始されています。春先からのロスを取り戻すべく、放送局は9月以降、または来年1月以降の収益確保のため、8~ 12%の料金アップを要求している模様です。

逆に、広告会社はマイナス3~5%を要求。最終的には間をとって4~6%のアップ、5年連続の CPM上昇で、また局側の勝利になるのではというのが大方の予想です。

主な理由は、リニアテレビならでの限られたCM枠在庫ではないでしょうか。FOXや NBCUに代表されるように、最近のリニアテレビのCM枠は減少傾向です。視聴の分散化が進んではいるものの、マスリーチという点でテレビメディアはまだ高い価値があります。エージェンシー側も、主要なデジタル領域(OTT·コネクテッドTV)だけでは広告主から“預かっている”多額の予算を出稿しきれず、必要なインプレッションが稼げません。結局、品質の良さを確約できるテレビ局頼みになってしまうのです。

加えて11月の大統領選挙関連番組や、秋口以降の番組編成に対する期待感が高いようです。スキャッター市場(アップフロントにおける売れ残り)で割高の価格を払う、あるいは希望枠がなくなるリスクを省きたいという思惑もあります。

ちなみに、大手エージェンシーの中には、ネットワーク局に対して「シェア取引」の交渉 も行っているようです。これは多くの広告主 の予算を抱えるエージェンシーが、局のCM枠 のシェアを確保するため、全願客の全体予算に 対する出稿費のシェアを確約する手法。多額 の出稿費をコミットする見返りに、良いCM枠、また多くの枠提供に融通を利かせるものです。局側、エージェンシー側の利害が一致する手法 と言えそうです。

なお、昨年契約のアップフロント部分について、広告出稿を継続したのはダイレクトレスポンス系がメインでした。ビジネスモデル的に、視聴率にこだわりがないためと思われます。ただ、その他の広告主も契約自体は継続中です。しかし、コロナによって番組が制作されなかった影響により、8月以降の広告出稿については、広告主の希望に合ったオーディエンスを有する他のメディアを模索しています。この危機に、放送局は視聴者の確保に躍起です。もともとリニアだけでは視聴者が離れていくことは十分に理解しています。そのため、 OTTやGAFAに対抗し、ストリーミングにも 注力。提供できうる限り、インプレッション数を増やそうと努力しています。

P&Gなど大手広告主のごく一部の動きではありますが、エージェンシーを介さず直接ネットワーク局とCM枠取引を始めているところもあります。OTTのプラットフォームではそのような取引形態もあるため、それがテレビにも少しずつ浸入してきているようです。

データは“ 付加価値” ではなく “ マスト ” に

業界は、コロナに大きな打撃を受け、様ざまな対応を余儀なくされています。しかし、アップフロントという形態はしばらく変わらないとみています。やはりこれは、業界にとってメリットが大きいためです。ひとつは、売り手側は年間の6~7割の収益が確保でき、買い手側は年間のメディアプランを立てられること。次に、市場また新規顧客より安価な価格でCM枠を購入できること。さらに、双方に担当者が付き、市場や政治・ 経済の変化にも柔軟に対応できることが理由に挙げられます。元NBCUの CROアラン・ ワーツェル氏がいつも言うように、「取引する上で、またそれを準備する上で一番大切なのは、限りなく‘‘ 予測可能 ’’な状況であること。そうすれば、環境や市場の変化にも対応できる」というところなのでしょう。
しかし、取引の中身は従来のリニアからタイムシフト、そしてデジタルからストリーミングへと広がると予想します。さらに、リニア、ストリーミング、デジタル、イベントを含むポートフォリオ全体が重視されるようになるでしょう。実際、コネクテッドTVのプログラマティック広告は、デジタルビジネス化の傾向にあります。
今後は「ポートフォリオ全体」に「データ」を掛け合わせた販売へと変化していく中で、放送局やエ ージェンシー、ブランド側もデータ・ サイエンティストやアナリストの存在は当たり前になっていることからも、既にデータは‘‘ 付加価値’’ではなく‘‘ マスト” といっていいでしょう。それに伴ってアップフロント、あるいは取引対象期間も、現在の9月スタートから1月スタートになる可能性もあるかもしれません。現在の動向を振り返ると、私自身もビッグス ポーツや秀逸なドラマなど良質なコンテンツの価値を再認しました。同時に、DXが一気に進んだことも実感しています。‘‘ 誰が作った’’ “どこで流した’’ではなく、より多くの人に見られるコンテンツがプレミアムコンテンツとして評価され、追求していく流れが急速に進むと思われます。

☆ビデオリサーチのレポート・コラム「VR Digest+」は こちら から

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